身体運動を指導し、その良いところを勧め、悪しきところを捨て去ることを職掌としている我々、体育・スポーツ関係者にとって、近年のウォーキング 流行は歓迎すべきことである。生来我々に備わる歩行運動を、あえてウォーキングなる外来語を称して老若男女が日々励んでいる姿は、それ自体興味深いことで ある。東京オリンピック以後の、レクリエーション、ヘルス、ジョギング、エアロビクス、フィットネス、ウェルネスといった外来の考え方が流布される背景に は、流行というきっかけが必要であった。しかしながら、流行は、哀しいかな、必ず過ぎ去るものである。ところが、そのブームの去った後に遺していったもの には、我々が真に学ぶべき保健思想や運動文化の貴重な知恵がある。「ウォーキング」もその洗礼を受けるであろうが、「歩行」は永遠であって、呼称はどうあれ、「たかが歩行」になぜ人々の関心が集中しているかと言えば、現代文明に埋没しがちな我々が「されど歩行」の知恵を20世紀末に模作し始めたからにちがいない。

 通常、研究会や学会は、研究者がアカデミズムに最大限の価値をおいて集合し組織するものである。しかし、生身の人間を研究対象とする身体教 育や保健指導の研究領域は、本来、「実践」を達成して初めてその価値に輝きが出るものである。したがって、本学会の源流を「歩行実践」の現場に求めること としたい。

 研究者なるものは、流行が頂点のとき、ないしは過ぎ去ってから、追随し慎重に検討する立場を好むものである。その事例にもれず、今 般、本学会の発足を提案する。果たして、「ウォーキング」なるものが、今日、頂点を極めようとする流行なのか、ないしは衰退の一途を辿ろうとするのか、判 然としない。ならば、ウォーキングがさらなる発展を目指していると信じ、その流行の一翼を担うと共に、ウォーキングに係る医学的、科学的、文化的意義を世 間に先んじて指摘すべく、ここに、学会を組織する次第である。

1997年4月吉日
日本ウォーキング学会会長